外壁塗装の塗料選びで、水性か油性か決めかねている方は多いのではないでしょうか。一般的には油性塗料の方が高価ですが、それぞれにメリットデメリットがります。把握しておかなければ、余計な費用や剥がれるるリスクもあります。
そこで本記事では、水性塗料と油性塗料の性質、外壁素材別の選び方を解説します。VOC規制に対応する低VOC塗料についても紹介します。
本記事を読めば、外壁塗装の計画を前に進められるでしょう。
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監修者:滋野 陽造
保有資格:宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士
早稲田大卒。マスコミ広報宣伝業務・大手メーカー等のWebディレクターを経て、不動産関連業に従事。法令に則しながら、時流や現状も踏まえた記事を執筆している。

監修者:井上咲
保有資格:宅地建物取引士
ビルオーナー業にてテナントとの契約業務、商業ビルの買収、不動産管理などを担当。現在は専業ライターとして、多くの不動産関連メディアに携わっている。
外壁塗装における水性塗料と油性塗料とは?

外壁塗装に用いられる水性塗料と油性塗料の大きな違いは、塗料の成分を「水で薄めているか、有機溶剤(シンナー)で薄めているか」にあります。これにより、臭いや耐久性など複数の点で異なる特徴を持ちます。
まずは、それぞれの特徴をみてみましょう。
水性塗料
水性塗料では、塗料の成分を希釈するために「水」が用いられています。臭いが少なく、住宅密集地などでも使用しやすい塗料です。VOC(揮発性有機化合物)の排出量も抑えられるため、環境や人体への負担を軽減できます。また、引火性がないことから、安全性にも優れています。
ただし、湿度や気温の影響を受けやすいため、施工時には天候の確認が必要です。金属などの素材には密着しにくいため、下地との相性にも気を付けなければなりません。
油性塗料
油性塗料は、成分を希釈するために「有機溶剤(シンナー)」が用いられています。臭いが強く出るものの、密着力や耐久性に優れているのが特徴です。また、紫外線や風雨にも強いため、屋根や金属面への塗装にも適しています。塗膜が厚く、長期間にわたって美観を保てる点もメリットです。
ただし、作業後の道具の洗浄には専用溶剤が必要で、取り扱いに注意が必要です。施工後もしばらく臭気が残ることがあるため、周囲への配慮も欠かせません。
外壁塗装の水性と油性の違いとは?

ここからは、塗料の水性と油性の違いとは何かについて紹介します。また、油性のみだった塗料の世界に後発で水性が出てきた経緯を含めて紹介します。
水性と油性塗料の基本的な違い
水性と油性の基本的な違いは、塗料の成分を何で薄めているかです。水で薄めているものが水性、有機溶剤で薄めているものが油性です。有機溶剤は石油由来のため、油性に分類されます。
水性塗料 | 顔料・樹脂・添加物+水で薄める |
---|---|
油性塗料 | 顔料・樹脂・添加物+溶剤で薄める |
外壁の塗料のベースは顔料・樹脂・添加物で構成されます。
これらの成分を溶かして薄める役割を果たすのが、水や有機溶剤です。塗料を柔らかくしたり、成分が揮発して濃くなった状態を元に戻したりするために薄めます。
油性塗料は、使用する溶剤の違いで溶剤(強溶剤)と弱溶剤に分かれています。溶解力が強い強溶剤の種類にはアクリルシンナーやラッカーシンナー、ウレタンシンナー、エポキシシンナーなどがあります。
シンナーとVOC(揮発性有機化合物)について
油性塗料のあの刺激臭の正体が、シンナーです。
以前は水性塗料の耐候性が低かったため、強溶剤で溶かした塗料(油性塗料)を外壁に塗っていく塗装工事のみでした。その後、技術の進歩で外壁に水性塗料の使用が可能になり、普及してきました。
その理由の一つが、シンナーの人体への影響です。
近年では外壁塗装の環境や人体への被害を減らすため、国で「VOC削減」という理念を掲げています。VOCとは揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)のことです。
人にも環境にも有害となる強溶剤塗料は、できる限り使用を避けるべきです。そのため、大手塗料メーカーでは水性塗料や溶剤塗料の研究を進められてきました。成分の弱いシンナーでも希釈できる「弱溶剤塗料」も開発されています。
弱溶剤塗料は「塗料用シンナー」で薄めて使える溶剤系塗料(油性)です。これは、シンナーの中でも比較的人体に刺激が少ないです。刺激的な臭いが抑えられるだけでなく、人体や環境への有害性も、従来の強溶剤塗料に比べて大幅に低減されています。
自動車の塗装においても現在では、新車の塗装がすべて水性塗料で行われています。ただし、修理用の塗装も徐々に水性塗料に対応した設備に移行しています。シンナーが人体へ及ぼす具体的な影響については、後述します。
施工工程と工期の違い
水性塗料と油性塗料では塗装の工程や工期が異なります。一般的には、油性塗料は乾燥時間が長く、工期が長い傾向にあります。また、全体の足場設置期間や職人稼働日数に差が生じ、最終的な工事費用にも影響します。
以下は、水性塗料または油性塗料を用いた場合の外壁塗装工事の一般的な工程です。乾燥時間が長い油性塗料では、より長い時間がかかることがわかります。
工程 | 水性塗料(晴天4日間想定) | 油性塗料(晴天4日間想定) |
---|---|---|
1日目 | 足場組立・高圧洗浄 | 足場組立・高圧洗浄 |
2日目 | 下地補修・養生・下塗り | 下地補修・養生・下塗り |
3日目 | 中塗り・昼頃まで乾燥 | 中塗り |
4日目 | 上塗り・夕方養生撤去 | 上塗り |
5〜6日目 | 足場解体・清掃 | 乾燥養生延長 |
7日目 | ー | 足場解体・清掃 |
水性塗料を用いる場合は3〜4日目で塗膜硬化が進みます。そのため、、5日ほどで足場の解体が可能です。一方、油性塗料を用いる場合、乾燥時間の延長や臭気対策が必要です。2日程度工期が伸びる傾向にあります。
費用の違い
一般的には、油性塗料の方が価格が高めです。シビアな耐候性能が支持されていながらも、水性塗料が主流となりつつあることから、生産数が少ないためです。
油性塗料と水性塗料の価格差
(平方メートル/円) | 水性塗料 | 油性塗料 |
---|---|---|
ウレタン | 1,300円〜1,700円 | 2,000円〜2,500円 |
シリコン | 1,700円〜2,500円 | 2,300円〜3,000円 |
フッ素 | 3,000円〜3,800円 | 3,500円〜4,800円 |
2022年 (株)ミヤケン調べ
水性塗料の乾燥時間が短くなったことで、外壁の下塗りから上塗りの間の期間が短縮できるようになりました。職人の作業時間が工賃に反映
外壁塗装の水性塗料のメリット・デメリット

強い溶剤の油性塗料が減ってきたものの、無くなっているわけではありません。それには油性塗料のメリットもあるためです。
水性塗料のメリット
水性塗料の主なメリットは以下のとおりです。
- 身体に優しい
- 臭いが少ない
- 引火リスクが低い
- 1液型で取り扱いや保存が楽
水性塗料はシンナーなどの強い溶剤を使う油性塗料と比較して、身体への影響や臭いが少なく安全です。臭いによって気分が悪くなったり、目・鼻が刺激を受けたりする可能性は低いでしょう。住宅密集地でも安心して使用できます。
実際に、水性塗料を使用したことにより、近隣トラブルを回避できたという声もあります。
Aさんの水性塗料を選んだ理由:塗料はシンナー臭がしない水性のものにした。また、事前に近隣に挨拶していたこともあり、近所からクレームなども起きず、問題なく塗装できた。
また、水性塗料は引火リスクが少なく、作業現場でも火気に対する心配が減ります。太陽光パネルがある住宅などでも安心して使用できます。
さらに、水性塗料は硬化剤と混ぜる必要がない「1液型」が主流です。塗料はすでに完成した状態で容器に入っており、準備が簡単で職人による技術差も
水性塗料のデメリット

水性塗料のデメリットは、以下のとおりです。
- 耐用年数が短い
- 艶が落ちやすい
- 対応していない下地が多い
- 寒い時期は乾燥時間が長くなる
水性塗料は紫外線の影響を受けやすく、油性塗料よりも持ちが短い傾向にあります。色褪せたり光沢が落ちたりするのが比較的早いです。長持ちさせたい場合、塗料のグレードを上げるか、頻繁なメンテナンスが必要となります。
また、水性塗料は鉄やアルミ、ガルバリウムなどの、ツルツルとした金属や水をはじく素材に密着しにくい傾向にあります。この場合、下塗り材の工夫や油性塗料との組み合わせなどが必要です。
さらに、気温が5℃を下回ると水性塗料は乾
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外壁塗装の油性塗料のメリット・デメリット

ここからは、油性塗料のメリットとデメリットを紹介します。
油性塗料のメリット
油性塗料の主なメリットは、以下のとおりです。
- 雨や風に強く、劣化しにくい
- ツヤが長持ちしやすい
- 金属などの素材にも密着しやすい
- 汚れが付きにくく、美観を保ちやすい
油性塗料は、耐久性や仕上がりの美しさに優れており、過酷な環境や寒冷地にも対応できる点が大きな強みです。ツヤ感が長持ちし、汚れにも強いため、美観を長く保ちたい方に適しています。また、金属や撥水性のある素材にもよく密着し、素材の選択肢が広がる点もメリットです。
油性塗料のデメリット

油性塗料は性能が高い反面、注意すべきデメリットもあります。
- 乾燥に時間がかかる
- 艶消し仕上げには不向きな場合がある
- 道具の洗浄に手間がかかる
- 開封後の保存ができない
- シンナーによる臭いや健康リスク
油性塗料は性能面で優れている一方、扱いにくさや健康面への配慮が必要です。乾燥が遅いため工期が延びやすく、作業後の道具は水洗いできず手間がかかります。
また、一度開封した塗料は保存がきかず、使い切る必要があります。シンナー特有の強い臭いは、人によっては頭痛や不快感の原因となるため、換気や防護対策を十分に行うことが大切です。

【外壁素材別】水性塗料と油性塗料の選び方

外壁塗装では、建材ごとに水の吸収性や温度変化による膨張・収縮の度合いが異なるため、素材と相性の悪い塗料を使用すると、塗膜が早期に剥がれたり、変色したりする原因になりかねません。
ここでは、よく使われる建物の素材を「金属」「木やモルタル」「付帯部」の3つに分類し、それぞれに適した塗料の選び方を解説します。
金属サイディング・鉄部:油性塗料
金属製の外壁や、鉄製の手すり・門扉などは表面が滑らかで、水をまったく吸収しません。そのため、水性塗料では十分に密着せず、早期にはがれてしまうおそれがあります。
一方、油性塗料は金属の表面にしっかりと浸透し、優れた密着性を発揮します。とくに、下塗りにエポキシ系塗料を使用し、その上から油性塗料を塗り重ねる方法は、より強固な塗膜を形成するため、長期間にわたって塗装の美しさと耐久性を保つことが可能です。
沿岸地域のように潮風による腐食のリスクが高い場所でも、光沢や色合いを長く維持できる点は油性塗料ならではの強みです。また、低温下でも乾燥が早いため、季節を問わず使用しやすいというメリットもあります。
木部・モルタル・ALC:水性塗料
木でできた部分やモルタルの壁、ALCパネル(軽量気泡コンクリート)は、目に見えない小さな穴がたくさんあり、湿気を吸ったり吐き出したりしています。こうした素材には、通気性を妨げない水性塗料が適しています。
特に「水性シリコン塗料」や「ラジカル塗料」は、塗ったあとも水分を通しやすい性質を持ちます。よって、内部にたまった湿気をうまく逃がし、塗膜の膨れや剥がれを防ぐ効果が期待できます。
モルタルの壁には、下地に「水性の弾性フィラー」と呼ばれる柔らかい下塗り材を使うことで、小さなひび割れにも対応できて安心です。
また、木部には「水性ステイン」という塗料を使えば、木の風合いを残したまま着色しつつ、紫外線を防ぐことができます。次回の塗り替え時も木材を大きく削る必要がなく、木材が長持ちしやすくなります。
付帯部(雨樋・破風板・軒天):多用途塗料
外壁以外の細かな部分、たとえば雨どいや破風板、軒天などは、素材がさまざまで塗装が難しいことがあります。このような場所には、いろいろな素材に対応できる「多用途塗料」を使うのがおすすめです。
具体的には、水性ウレタンや2液型の水性シリコン塗料などがあり、塩ビ、金属、窯業板といった異なる素材にもよくなじみます。同じ塗料で統一すれば、色ムラが出にくく、見た目もすっきりまとまります。
また、付帯部は日差しが直接当たりにくいことが多いため、耐久性よりも「においの少なさ」や「乾きの早さ」が重視されます。1液タイプの速乾塗料を使えば、狭い場所でも作業がしやすく、天気が変わりやすい時期でも安心です。
外壁塗装で水性塗料がおすすめなケースvs油性塗料がおすすめなケース
施主の基本的な予備知識として、状況に応じて水性・油性どちらが良いと希望すればいいかをご説明します。
水性塗料がおすすめの場合とは?
周囲へのにおいなどの影響が少ない方がいい場合や、ご家族にデリケートな人がいて、健康被害が心配な場合は、なるべく水性塗料を希望するといいでしょう。
また、外壁塗装の価格を安く抑えたい場合も水性が向きますが、外壁でも対候性が強く求められるなどの環境では、長持ちしたほうが長い目ではコストは下がるため、一概に水性が安いとは言い切れません。
油性塗料がおすすめの場合とは?
外壁のほか、屋根などシビアな耐候性が求められる場合は、油性塗料の方が向いている場合もあります。
また、塗装する材質によっても塗料の適性は変わります。ガルバリウム鋼板製のサイディング壁や、外構などの鉄部へのつやのある塗装は、油性塗料の方が仕上がりが美しい上、適した塗料の数も多いでしょう。

外壁塗装をする施主が知っておくべきこと
現状、外壁塗装用の普及度では7割以上が水性塗料です。業者からも水性塗料のほうを勧められる場合が多く、それでほぼ問題はありません。水性か油性かの選択は、塗装する壁材や塗る場所の状況でも選ぶことになりますが、その点は塗装業者と相談しましょう。
外壁乾燥時のにおいやシンナーの刺激の問題は、時間とともに徐々に収まってきますが、注意は必要です。ただし水性の塗料も、シンナーを利用した油性塗料に比べれば臭いが少ないだけで無害ではありません。
塗料には、大なり小なりの身体への悪影響は存在します。化学物質過敏の人は、身体への影響の少ない水性塗料やオーガニックペイントの使用を相談したり、施工中はマスクの使用や家を留守にしたりするなどのケアを検討しましょう。
塗装でもっともにおいや揮発の強いピークは、下塗りから上塗りの3日間、特に中塗り・上塗りの2日間です。
また、水性塗料でも特におすすめなのは、F☆☆☆☆(フォースター)の塗料です。
JIS(日本工業規格)、JAS(日本農林規格)では、ホルムアルデヒト(臭いの元)の発散量によって等級が決められています。F☆☆☆☆はホルムアルデヒドの放散基準が最も少なく、臭いも少ない塗料です。
まとめ
外壁塗装の塗料について、水性と油性の性質などの違い、価格、選び方、メリット・デメリットなどについて解説しました。
塗料に対する基礎知識も、塗装業者との相談の際に役立ちます。長持ちさせたい、きれいに仕上げたい、身体に悪くないなど、こちらの希望を分かりやすく伝えるのが大切です。